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広瀬明久

メキシコ人を理解する –現地教育事情を通して− (2)

更新日:2月28日


(前号からの続き)


今回は、一般に公開されている情報では滅多に知り得ない、生の教育現場の状況を紹介したいと思います。


  • 教師が遅刻、欠勤する。

  • 無断欠勤で解雇された教師が学校を訴えてくる。

  • 課外授業などでも集合時間に遅れるのは生徒でなく、教師の方である。

  • 教師は授業中、生徒の飲食を黙認。自らも飲食をするため、生徒に注意ができない。

  • 授業中、携帯で授業に関係にないメッセージのやり取りをしている。

  • 生徒の成績表改ざんのために親に賄賂を要求する。

  • 幼稚園において、先生が爪を長く伸ばしマニキュアをしている。児童の安全よりも自分の趣味やオシャレが優先されている。そもそも安全という概念が薄い。

いかがでしょうか。このようなことは日常茶飯事です。私立の学校においては、公立よりははるかに良いのですが、一部を除き似たような状況は存在します。


このような状況をなしている大きな原因の一つは、教員の質にあると言えます。識字率が低い時代に教員を大量に採用したため、その質については目をつぶっていた面もありました。しかし、後にその問題が顕在化してきたのです。中学もまともに出ていなかったり、中には九九さえもできない教員もいます。



公立学校においては、宿題は親が手伝わなくてはできないものとなっていますが、これは学校の授業だけでは学習内容を消化しきれないということと、個々の教員の学習指導力が低いことが原因と言われています。


もちろん、このようなことが全ての教員に当てはまるわけではなく、高邁な教育思想をもった教師もいます。しかし、現在教員が置かれている経済的、社会的、文化的状況は、高邁な教育思想をもって、それを実践することを妨げていると言えます。


このような状況に政府も頭を痛めてきたました。ペニャ・ニエト政権(当時)が2013年から進めてきた一連の構造改革の中でも、一番最初に着手されたのが教育改革でした。


改革の大きな特徴は、教育に対する教職員組合の影響力を低下させ、教師の能力評価を義務化したことです。教員への業績評価の導入と教員労働組合が握っていた教員の採用権限を政府へ移管することを目的として、慣習となっていた教職の世襲とその際の汚職を排除するものとなっています。そして、教職員の評価や採用の任は、全国教育評価機関が担うことになりました。


意見の分かれるところではありますが、改革は一部地域(オアハカ州、ゲレーロ州、ミチョアカン州、チアパス州など)除き、概ね順調に行われてきたとされています。


では、紆余曲折を見ながらも実施されてきた教育改革の成果はあったのでしょうか? 2016年12月に発表された国際学力テストPISAの結果(試験が行われたのは2015年)を見てみましょう。



対象は日本でいう高校一年生ですが、メキシコはOECD35カ国中最下位でした。この国際学力テストは3年毎に行われていますが、前回も同様の結果でした。数学的リテラシー分野、科学的リテラシー分野、読解力のすべての分野においてメキシコは最下位でした。



上の表は世界経済フォーラムの国際競争力ランキングの中の教育に関する部分を表にまとめたものですが、調査対象国140カ国中、メキシコはランキングも評価も低くなっています。


メキシコ教育省は、PISA試験の結果を受け、現在行われている教育改革が成果を出し始めるのに時間がかかると言って弁明しています。


冒頭にあげた5S、QCサークルの例は、学術面の教育というよりは価値教育の問題と思われますが、メキシコでは伝統的に学校では学術的な部分に重きがおかれ、人間形成における学校の役割は低いようです。


メキシコの教育をとりまく状況は複雑です。その原因の一つは、複雑な民族性にあるように思えます。


16世紀からのスペイン人による支配で先住民のアステカ文明は破壊され、植民地支配の後、スペインからの独立、そして革命を経て現在のメキシコが出来上りました。アメリカとの戦争やフランスによる支配など、常に外国から干渉され、メキシコ独自の文化がなかなか形成されなかった歴史もあり、現在のメキシコは、先住民文化の上に欧米文化が重なって形成されていると言えます。


こうした歴史的背景を受けてと思われますが、メキシコにはドイツ系のコレヒオ・アレマン、フランス系のリセオ・フランコ・メヒカーノ、アメリカ系のアメリカンスクール、イギリス系のグリーンゲイツ、スイス系のコレヒオ・スイソなど、インターナショナルスクールが数多く存在します。日系の日本メキシコ学院(リセオ)もその一つですが、これら学校はランキングでは常に最上位を占め、絶大な人気を誇っています。他国の教育に対する憧れ、自国の教育に対する不安が、このような現状を招いていると言えます。


経済的には比較的順調な発展を遂げてきたメキシコですが、先進国の仲間入りをし、国際社会で伍していくためには、学力とともに人間形成や価値教育のレベルを高めることが不可欠でしょう。


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