今回は、メキシコでのビジネスシーンや日常の生活の中で気づいた気になるスペイン語表現について記してみたいと思います。
コミュニケーションにおいて、言葉はただの単語を超えた意味を持ちます。言葉一つ一つに深い文化的背景があり、それを理解することがビジネスの成功や生活の質の向上につながります。以下では、メキシコでよく使われるスペイン語表現と、その背後にある文化的意味について幾つかの例をもって考察してみます。
esperar(願う)とconfiar(確信する)
Espero que todo salga bienとは「全てがうまくいくことを願います」という意味ですが、メキシコのビジネスシーンでは、この表現よりもConfío en que todo saldrá bien(全てがうまくいくことを確信しています)」という言い方の方が適している場合が多くあります。これは、単なる希望ではなく、確固たる信頼と期待を示すもので、強いコミットメントを表現するのにふさわしい言い方です。日本人にはやや断定的に聞こえるかもしれませんが、メキシコではビジネスパートナーに対する信頼感を伝えるために効果的です。
約束を表すTe prometo que…や誓いを宣言するTe juro que …など
約束は日本では守らなければならないものと一般に考えられていますが、メキシコではこれらの言葉が必ずしも厳粛な意味を持つとは限りません。Te prometo que…(あなたに…を約束します)やTe juro que…(あなたに…を誓います)は、強い約束を意味するように思えますが、実際にはその約束はそれほど強い拘束力は持ちません。メキシコでのビジネス、生活一般においては、相手の言葉だけでなく、その人との関係や状況を総合的に判断することが求められます。
Lo más seguro es que…、seguramenteの実際の確率
メキシコ人は楽観的な表現を好むため、Lo más seguro es que…(最もたしかなことは…)やseguramente(おそらく)やといった言葉が示す確率は、聞こえるほど高くないことがあります。日本人はこれらの言葉を聞くと、80%~90%の確信があるように感じますが、メキシコではこれが50~60%の可能性を指していることが多いのです。文化間のこのような差異を理解し、過度な期待はしないようにしましょう。
敬意を示すcon todo respeto
メキシコでフォーマルなシーンでは、相手に批判や異議を唱える際にcon todo respeto(全ての敬意を持って)というフレーズを前置きに使用します。この表現は、対立を避け相手への敬意を示すために使われますが、実際には敬意があまり感じられない批判的な意見が続くことも少なくありません。
例えば
Con todo respeto, su argumento no tiene ningún fundamento.
(全ての敬意を持って言いますが、あなたの主張には全く根拠がありません。)
表面的には「敬意を持って」と言いつつも、実際には相手を認めていません。ですのでcon todo respetoと聞いたら要注意です。
ahorita(今すぐ)
メキシコのahoritaは有名です。ahora「今」の縮小辞で「今すぐ」という意味ですが、ビジネスのみならずあらゆるシーンでよく使われる言葉です。
ただし本来の意味で使われることはほとんどなく、実際には「いずれ」「そのうちに」といった意味になります。
Ahorita vengo(今すぐ戻ります)
と言われても、今すぐ戻ってくる確率は低く、「いつ戻るかは未定だが、戻る予定」程度に解釈した方が無難です。これはメキシコの柔軟な時間観念を反映しており、日本人の時間に対する厳密な感覚とは異なります。
hastaの解釈
メキシコでは、hasta(〜まで)という言葉が「〜から」と全く反対の意味に解釈されることがあります。
例えばInscripciones abiertas hasta el 15 de agosto(申し込みは8月15日まで)というフレーズが、「8月15日から申し込みが始まる」と受け取られる場合があります。
これは期日や時間に関する約束をする際に混乱を招く可能性があるため、コミュニケーションをとる際には相手の解釈を確認し、誤解がないようにすることが重要です。hastaの用法に関しては、文化的な問題と言うよりは誤用が一般化してしまった例と言えそうですが、一般に時間に対する概念の違いから、表面上の意味とはかなり離れて言葉が使われていることが少なくないことを意識しましょう。
スペイン語を学ぶ際には、これらの表現や言葉の背後にある文化的なニュアンスを理解することが重要です。ビジネスにおいては、相手の言葉を額面通りに受け取るのではなく、文脈や文化的背景を読み解く能力が問われます。
言葉は文化の鏡です。言葉と文化を学ぶことは、単に新しい言語を学ぶこと同様の価値があります。それは、異なる世界観を理解し、国際的なビジネスの場での成功する大きな要因となります。
自らのアンデンティティを捨てる必要は全くありませんが、自己の常識を一旦相対化して、現地の人と深いレベルでのコミュニケーションを図れば、今まで見えなかった新しい世界が広がってくるかもしれません。
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