ワンランク上のスペイン語 #16 相手の本音を引き出す
メキシコで仕事をしていると、部下や取引先に「何か問題はありますか」と尋ねて、No, no hay problema.(いえ、問題ありません)という答えを聞くことがよくあります。そう言われれば、普通は安心します。しかし、月曜日には「問題ありません」と言っていたのに、木曜日になって「実はまだ部品が届いていません」、会議では誰も反対しなかったのに、期限直前になって「このスケジュールでは難しいです」と言われることがあります。
日本人側からすれば、「でも、あの時『問題ない』と言いましたよね」と言いたくなるところです。しかし、相手は必ずしも嘘をついたわけではありません。「今の段階では反対しない」「何とかしたい」「上司の前でできないとは言いにくい」「まだ問題と言うほどではない」といった気持ちを含めて、No hay problema. と答えている場合もあります。
これはスペイン語だけの問題ではなく、質問の仕方と人間関係の問題でもあります。本音を聞きたいからといって、「本当のことを言ってください」と迫っても、本音が出てくるとは限りません。大切なのは、相手が現実的な懸念や条件を話しやすくなるような質問をすることです。
今回は、メキシコをはじめとするスペイン語圏のビジネスシーンで、表面的な「問題ありません」の一歩先まで聞くための表現をご紹介します。

1. まず相手の見方を尋ねる
¿Hay algún problema?(何か問題はありますか。)はもちろん間違った表現ではありません。しかし、この質問には「ある・ない」で答えられてしまうという弱点があります。特に上司と部下、顧客と業者のように立場に差がある場合、相手にとって最も簡単な答えが No, no hay problema. になってしまうことがあります。
そこで、問題の有無を尋ねる前に、相手がどう見ているのかを聞いてみます。
¿Cómo lo ves?
(あなたはどう見ていますか。/どう思いますか。)
¿Cómo ve esta propuesta?
(この提案をどのようにご覧になりますか。)
¿Qué opinas de este plan?
(この計画についてどう思いますか。)
Desde tu punto de vista, ¿qué aspectos deberíamos revisar?
(あなたの立場から見て、どの点を見直すべきだと思いますか。)
たとえば、¿Hay algún problema con el calendario? と聞けば No. で終わるかもしれません。しかし、¿Cómo ves el calendario? と聞けば、Está un poco ajustado.(少し厳しいですね。)という答えが返ってくる可能性があります。そして仕事では、この「少し厳しい」の中に重要な情報が隠れていることがあります。
¿Cómo lo ves? は、tú で話す相手に使う自然な表現です。取引先や目上の相手など、usted を使う関係であれば、¿Cómo ve esta propuesta? のようにすると丁寧です。
2. 「問題」ではなく「気になること」を尋ねる
仕事上のリスクは、最初から「問題」という形で現れるとは限りません。最初は「少し気になる」「まだ確認できていない」「ちょっと難しいかもしれない」という程度かもしれません。そして、大きな問題になってから報告されるより、その前の小さな違和感を知る方が、仕事でははるかに役に立ちます。
そのような時には、次のような表現が便利です。
¿Hay algo que te preocupe?
(何か心配なことはありますか。)
¿Hay algún punto que le preocupe especialmente?
(特にご心配な点はございますか。)
¿Hay algo que no te convenza del todo?
(今ひとつ納得できない点はありますか。)
¿Qué parte te genera más dudas?
(どの部分に一番疑問を感じますか。)
Si tuvieras que señalar un riesgo, ¿cuál sería?
(もし一つリスクを挙げるとしたら、何でしょうか。)
「問題がありますか」と聞かれると、相手は「問題がある」と明言しなければなりません。しかし、「もし一つリスクを挙げるとしたら?」であれば、もう少し答えやすくなります。
preocupar(心配させる)、duda(疑問・不安)、no convencer del todo(十分には納得できない)などを使うことで、まだ「問題」と呼ぶほどではない小さな懸念にも話を広げることができます。
3. 「できますか?」より「何があればできますか?」と尋ねる
上司が「金曜日までにできますか」と聞き、部下が「はい、できます」と答えたにもかかわらず、金曜日になって終わっていない。このような時、日本人管理職であれば「できると言ったではないか」と感じるかもしれません。しかし、質問そのものを少し変えることで、より具体的な状況を確認することができます。
¿Qué necesitarías para poder hacerlo?
(それを実行するために、何が必要ですか。)
¿Qué apoyo necesitarías de nuestra parte?
(私たちから、どのような支援が必要ですか。)
¿Con los recursos actuales sería posible cumplir el plazo?
(現在のリソースで期限を守ることは可能ですか。)
¿Qué tendría que cambiar para que el plan fuera viable?
(この計画を実行可能にするためには、何を変える必要がありますか。)
¿Hay alguna decisión pendiente que te impida avanzar?
(作業を進める妨げとなっている未決事項はありますか。)
「できますか?」だけであれば、Sí. で終わるかもしれません。しかし、「何が必要ですか」と聞けば、「あと2日必要です」「購買部門の承認が必要です」「もう一人作業員が必要です」といった具体的な条件が出てくる可能性があります。本音を引き出すとは、不満を聞き出すことではなく、仕事を本当に実行するために必要な条件を確認することでもあります。
4. 障害やリスクを先回りして確認する
Todo va bien.(すべて順調です。)もよく聞かれる言葉です。プロジェクトについてこう言われれば安心します。しかし、本当に知りたいのは「今、順調かどうか」だけではなく、「この先、どこで止まる可能性があるのか」という点でもあります。そこで、障害やリスクを具体的に尋ねます。
¿Qué obstáculos ves para cumplir este objetivo?
(この目標を達成する上で、どのような障害があると思いますか。)
¿Qué podría dificultar la implementación?
(実施を難しくする可能性があるものは何ですか。)
¿En qué parte del proceso podría haber retrasos?
(工程のどの部分で遅れが生じる可能性がありますか。)
¿Hay algún riesgo que no hayamos considerado?
(私たちがまだ考慮していないリスクはありますか。)
¿Qué deberíamos prever desde ahora?
(今のうちに何を想定しておくべきでしょうか。)
特に、¿Hay algún riesgo que no hayamos considerado? は便利な表現です。「あなたが見落としていることはありませんか」ではなく、「私たちが見落としていることはありませんか」と尋ねています。自分たちにも見落としがある可能性を認めることで、相手だけに責任を負わせない聞き方になります。
5. 「問題ありません」と言われたところから確認を始める
相手が No hay problema. と答えたところで会話が終わってしまうことがあります。しかし、仕事によっては、そこから具体的な確認を始めた方がよい場合があります。
Cuando dices que no hay problema, ¿quieres decir que puedes cumplir el plazo con los recursos actuales?
(「問題ない」というのは、現在のリソースで期限を守れるという意味ですか。)
Entonces, ¿consideras que el plan es viable tal como está?
(では、この計画は現状のままで実行可能だと考えていますか。)
Solo para confirmar, ¿no ves ningún riesgo importante en este momento?
(念のため確認しますが、現時点で大きなリスクはないということですか。)
Entiendo. ¿Y qué parte requerirá más atención?
(分かりました。では、どの部分に最も注意が必要ですか。)
¿Te parece realista la fecha o sería mejor revisarla?
(この日程は現実的だと思いますか。それとも見直した方がよいでしょうか。)
ここで¿Es teórico o real?(それは理論上の話ですか、それとも現実の話ですか)と聞くこともできますが、かなり直接的で、少しきつく聞こえることもあります。
また ¿Seguro?(本当に?)とだけ聞くと、相手の判断を疑っているように聞こえることがあります。
「あなたの言っていることを信用していません」という印象を与えてしまえば、本音を聞き出すどころか、相手が口を閉ざすことにもなりかねません。大切なのは相手を疑うことではなく、「問題ない」という言葉が具体的にどのような状態を意味しているのかを確認することです。
6. 考える時間と話しやすい場をつくる
質問を工夫しても、その場ですぐに本音が出てくるとは限りません。会議に上司や同僚がいる、まだ資料を十分確認していない、自分の考えがまとまっていない、といった状況では、「率直に言ってください」と言われても、すぐには答えられないことがあります。
No tienes que responder ahora. Piénsalo y lo revisamos mañana.
(今すぐ答えなくても構いません。考えて、明日確認しましょう。)
Si después identificas algún riesgo, por favor házmelo saber.
(後で何かリスクに気づいたら、知らせてください。)
Me interesa conocer tu opinión sincera, aunque sea diferente de la mía.
(私と異なる意見であっても、率直な考えを聞きたいと思っています。)
Puedes comentármelo también en privado si lo prefieres.
(その方がよければ、個別に話してもらっても構いません。)
そして非常に重要なのは、本当に率直な意見が出てきた時の対応です。「率直に言ってください」と言った後で、部下が「この日程では難しいと思います」と答えた時に、「なぜもっと早く言わなかったんだ」「できない理由ではなく、方法を考えてください」とすぐに返してしまえば、次から何も言ってもらえなくなるかもしれません。本音を引き出すには、質問の表現だけでなく、答えを受け止める側の態度も重要です。
異文化理解の視点
日本でもメキシコでも、上司、顧客、取引先など、自分より強い立場にある相手に「それは無理です」「その計画には問題があります」「私は賛成できません」と率直に言うことが難しい場合があります。ただし、どの程度直接的に伝えるかは、国だけでなく、企業文化、役職、職種、世代、相手との関係によっても異なります。
メキシコの職場では、良好な人間関係や相手への配慮が重視される傾向にあります。そのため、No hay problema. が、十分な検討を終えた上での「問題は一切ありません」という保証ではなく、「協力したい」「何とかしたい」「その場で反対したくない」という気持ちを含んでいる場合もあります。もちろん、文字どおり本当に問題がない場合もあります。
大切なのは、相手の言葉を「信じるか、疑うか」という二択にしないことです。No hay problema. と言われたら、「本当に?」と疑うのではなく、「それは具体的にどういう状態なのか」を確認する。そのための質問を持っておくことが重要です。
Dime la verdad.(本当のことを言ってください。)や ¿Cuál es el verdadero problema?(本当の問題は何ですか。)のように聞けば、相手が何かを隠していると決めつける印象を与えることがあります。それよりも、¿Cómo lo ves?、¿Hay algo que te preocupe?、¿Qué parte requerirá más atención?、¿Qué necesitarías para poder hacerlo? と、相手が話しやすい入口をつくる方が効果的です。
相手の本音を引き出すとは、無理に秘密を聞き出すことではありません。表面上の「問題ありません」の奥にある懸念、条件、リスク、必要な支援を具体的に確認することです。
スペイン語が一段上になるとは、難しい単語や文法をたくさん知ることだけではありません。相手の No hay problema. を聞いて安心して終わるのではなく、その奥にある現実まで自然に聞けるようになること。それもまた、メキシコで仕事をするための「ワンランク上のスペイン語」ではないでしょうか。
スペイン語で、率直に話し合える信頼関係を築いていきましょう。
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