直線的に進まない時間

更新日:1月30日

メキシコで仕事をしている多くの日本人は、メキシコ人の時間の不正確さを快く思っていないはず。私もそうでした。今でも心に余裕がない時はそうです。


しかし、この国でうまくやっていくためには、時間は必ずしも直線的には進まないということを理解しなければならないと考えます。


私がメキシコに渡る前、メキシコ人の友人が日本はmuy organizado(とても整然としている、統率されている)としきりに言っていたことをよく思い出します。当時は何のことやらピンときませんでした。電車の発着時間が正確だからか?


その後、実際にメキシコで生活して社会と深く関わるようになり、その意味がわかるようになりました。


まず、メキシコでは日常生活が固定化されていないとう現実があります。日々の生活は絶え間ない変化をベースに動いています。


他の途上国に比べれば、政治は比較的安定していますが、それでも政権が変われば、経済、税務、労務政策は大きく変わります。


また、交通量の増減が激しく、デモなども頻繁に起こり、移動時間を読むことは困難です。大雨が降れば洪水状態になる地域も発生し、街の機能はストップし、停電も珍しくありません。


すべてが規則正しく、ほぼ間違いなく機能している日本とは前提条件が異なっているのです。


先が見えづらいメキシコの状況を考慮せず、少しでも遅刻してきた社員に問答無用に重い罰を課している会社がありました。デモで道が封鎖されていようが、大雨が降ろうが、遅れてきたらその日は仕事をさせず、給料からその分を差し引いていました。


日本であれば、電車が遅れたら鉄道会社が遅延証明を発行するなど、遅れの正当な理由は証明できますが、メキシコではもちろんそんな証明はありません。その会社では、日本人とメキシコ人の関係は非常にギクシャクしており、離職率が上がっていきました。


一方、別の会社では違ったアプローチをしていました。新任研修において、その会社のメキシコ生まれの日系人役員がメキシコにおける心構えを述べていた時のこと。


「メキシコでうまくやっていけるかどうかを見分けるのによいテストがある。バスに乗るために列に並んでいる。自分が乗る番になった。しかし、乗ろうとした時に運転士は別の者を優先した。こんなことに過度に気をもんでいるようだとこの国ではうまくやっていけない」


これは、「理不尽なことを認めよ」というよりは、むしろ予想できないことが起こりうるメキシコでは、時間は直線的に進まないというメッセージだったのだろうと思います。この会社は非常に成功し、現地メディアに超優良企業として紹介されました。


メキシコでは、予測が困難な難題が生じることが多いため、余裕を持っていて、咄嗟の事態に対処できる人の方が評価されます。あらかじめスケジュールを立てても良いのですが、融通の効かなさは非効率とみなされます。


日系の会社では、中長期計画で5年先や10年先を見据えた計画を立てます。そのような時、メキシコ人の心の中を覗いてみたらどんな感じでしょうか。


「10年先のことなどわかるはずない。今からそんな先のことを決めるために時間を割くことは非効率だ」


きっとこんなことを思っているでしょう。


メキシコ人にとって、10年先の計画は単なる理想です。そのためと思われますが、数値目標を設定させると、とんでもなく高かったりします。


もっとも、メキシコ人は先が読めない状況に慣れ過ぎてしまっていて、やり方によっては対処できる場合でも、最初から諦めてしまっているところがあるのも事実です。そんな時、Ni modo(しょうがない)と言いますが、日本人はこれを非常に嫌います。


会社を運営していくにあたっては、当然のことながら、すべてを許してしまっても構わないというわけではなく、時には厳しさも必要でしょう。


日本人の側としては、まずはメキシコの置かれている状況や前提条件を理解すること、そして理解してから理解されるというスタンスでいることが重要になってくると思います。そうすれば、日本のやり方に理解を示してくれるメキシコ人も増えてくるでしょう。


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