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広瀬明久

メキシコのビジネスマナー

更新日:2月18日

メキシコに赴任してまもない駐在員の方々は、文化や商習慣の違いから、どう振る舞っていいか判断がつきかねるというシーンに遭遇しがち。現地のマナーを理解し、尊重することは、任務を適切に遂行していくための重要な鍵になります。このブログでは、日本人駐在員がスペイン語圏、特にメキシコでの仕事を円滑に進めるためのポイントを、具体例を交えながら探っていきます。


目次


1)親しみやすい挨拶

2)本題に入る前の雑談

3)時間に対する柔軟性

4)会議のコミュニケーションスタイル

5)ビジネス会食の重要性

6)飲酒に関する寛容度

7)男性と女性

8)ビジネスカジュアルの適切な着こなし

9)フォーマルな表現

10)敬称

11)冠婚葬祭

12)ビジネスネットワーキング

まとめ



1)親しみやすい挨拶


スペイン語圏のビジネスでは、挨拶が非常に重要な役割を果たします。


初対面の場合、

Mucho gusto. Me llamo XX

はじめまして、XXと申します。

などと言って、握手から始まります。


商談がうまく行った時などは、握手からハグに移ります。男女間または女性同士であればキスも普通です。日本人は慣れないとやや違和感を感じますが、スペイン語圏ではごく自然に行われます。


ただ異性間のキスに関しては少し注意が必要。キスを交わす主導権は女性の側にあります。男性の側からキスを求めるのはスマートではありません。


ちなみに中南米ではキスは片頬に1回、スペインでは両頬に一回ずつです。いずれも頬と頬をあわせて唇を弾かせる程度の軽いもの。


概して挨拶の際にはボディタッチが多いスペイン語圏ですが、コロナ禍では感染リスクを抑えるためキスやハグは控えられました。コロナがほぼ終息した現在(2023年末)でも、以前に比べ、ボディタッチは少なくなっています。今後その習慣は徐々に戻ってくると思われますが、コロナ禍をきっかけに、非接触の挨拶が定着する可能性も考えられます。


2)本題に入る前の雑談


商談やミーティング前に相手との距離感を築くために軽いおしゃべりを交えることが一般的です。スペイン語圏では個人的な関係が重要視されるため、初対面でも相手に対して適度なプライベートな質問をすることはよいことです。ただし、家族関係は複雑な場合も少なくないので、その点はわきまえましょう。


例えば週明けであれば

¿Cómo disfrutó su fin de semana?

週末はどのように過ごしましたか?

などと会話が始まります。


私たち日本人は本題に入る前の雑談が長すぎるとイライラしがちですが、文化の違いと心得て、寛容に接した方がうまくいくと言えます。


3)時間に対する柔軟性


スペイン語圏では時間に関しては、柔軟な考え方が一般的です。ビジネスミーティングが予定よりも遅れることは珍しくありません。実際、交通渋滞が読めない場合もあり、何でも起こりうる社会においてはあらゆる意味で柔軟性は必要です。


Me disculpo por la tardanza. El tráfico estuvo muy complicado

遅れてしまい申し訳ありません。交通が非常に混雑していました。


よく聞かれる言葉です。融通性を求められたら、それに応じましょう。


ただし、国際的な企業との取引の場合は話が別。約束の時間をきっちり守ることが期待されるので、時間に十分すぎるくらいの余裕を持って臨むとよいでしょう。


スペイン語圏の中でもとりわけメキシコは時間に”柔軟”と言われています。正確な比較は難しいのですが、メキシコ以外のスペイン語圏での赴任経験のある方の話や、文化評論に関する書物からしても、横綱格です。


メキシコのahorita は有名です。「今」という意味のahoraに縮小辞がついた形で「今すぐ」という意味ですが、その意味で使われることはほとんどありません。Ahorita vengoは「今すぐ戻ってきます」でなく「いずれ戻ってきます」の意。実際には戻ってこないかもしれません。


4)会議のコミュニケーションスタイル


メキシコや他のスペイン語圏の国々では、ビジネスミーティングにおいて、話の途中で他の人が言葉を挟んだり、複数の人が同時に話し始めることは珍しくありません。これは彼らの文化では活発な対話と見なされ、エネルギッシュで情熱的なコミュニケーションスタイルを反映しています。


日本人のビジネスマナーからすると、失礼に感じられるかもしれませんが、一般にスペイン語圏の文化では正常なコミュニケーションの一環とされています。


従って、自分が発言している最中に言葉を挟まれても、礼を欠いた言動と見なさないことです。そして、積極的な態度を取ることが有効です。


例えば、適切なタイミングで、ときにはやや強引にでも、意見を述べたり、会話に参加したりするといいでしょう。ただし、日本の文化的な遠慮や礼儀を完全に捨て去る必要はありません。そのような美徳は全く通用しないということはなく、長期的に見ればの日本人のアイデンティティとしてプラスに働く場合も多くあります。


余談ですが、批判や異議を唱えるとき、前置きとしてよくcon todo respeto(直訳すると「全ての敬意をもって」)という言葉を挟みます。相手に礼を欠かないために使われるのですが、この言葉が出てきたら注意が必要です。本当に失礼な場合がしばしばあります。


5)ビジネス会食の重要性


スペイン語圏では一般的にビジネスランチ、ディナーなど会食が、商談をうまく運ぶ上で重要です。食事の際には趣味や家族についても話題にし、お互いをより深く理解し、信頼関係を築くことはプラスに働きます。


インフォーマルな食事の際に、重要な案件が実質的に決まってしまうというケースもあります。


商談や接待においては、割り勘の慣習は一般的ではありません。通常はホストが費用を負担します。これは、ビジネスパートナーに対するもてなしの一環として捉えられます。


男女間の場合、特に恋人同士の食事なら男性が払うのが普通ですが、ビジネス上の関係では女性から誘った場合は女性が負担します。


6)飲酒に関する寛容度


スペイン語圏の飲酒文化は、一般的に社交的で、陽気なものと言えますが、多くの国で路上での飲酒は禁止されています。そして公共の場で酔っ払うことは、マナーの悪い恥ずかしいこととされています。


日本の都会ではグデングデンに酔っ払った輩が、終電に集まってくる光景は珍しく有りませんが、海外の人はこれに衝撃を受けます。日本の酒と酔っ払いに関する寛容度は、世界屈指と言えます。


スペイン語圏で公共の場で醜態をさらすようなことをしたら、相当程度が低いと見なされますので、注意が必要です。


ちなみに、酒を強要されることはあまりありません。No quiero beber(飲みたく有りません)と断ればあっさり引きます。


7)男性と女性


スペイン語圏でも性差のない社会を目指していますが、レディーファースト文化は健在です。


男性はエレベーターやドアの出入りは女性を先に、あるいはドアが閉まらないように抑えて出入りを見守ります。またレストランでは女性に椅子を引くなど紳士的な振る舞いは教養の高さの表れともとらえられます。男性が上役であっても女性の部下にこのような紳士的な振る舞いをする光景はよく見られます。


ただし、ビジネスシーンではこれら行動が絶対的な規則とされているわけではなく、企業の文化により異なります。


スペイン語圏では伝統的に社会の単位がカップルです。公式なパーティーなどへの招待は普通夫婦単位で行われます。公な場に夫婦で参加することにより、仲の良さ披露するといった側面もあります。


カップルが単位なので単身赴任はまずありえません。ましてや海外への単身赴任はよっぽど特別な事情がない限りないと言えます。単身赴任である場合は、パートナーが親の看病をしているなど、何らかの強力な理由を用意しておくと良いでしょう。そうでないと夫婦仲が悪いと思われてしまいます。


ラテンの世界では、男性も女性も積極的。ちょっとしたパーティーなどで、独身か既婚かが話題になり、既婚であっても「それは幸せな結婚か」と迫ってきます。外国人との結婚は今の生活から抜け出すチャンスなのです。


ついでながら、一昔前まではスペイン語圏では男性が女性にピロポという褒め言葉(時には不適切な性的意味合いを持つ)を投げかけることも、一種のマナーとされていましたが、近年ではセクハラの問題からピロポはなりを潜めました。



8)ビジネス、カジュアルの適切な着こなし


スペイン語圏では一般的にカジュアルな服装が許容される範囲が広いと言えます。


メキシコシティのような大都会ではビジネスシーンにおいてフォーマルな服装が望ましいのですが、地方においてはビジネスの場であってもかなりカジュアルですので、柔軟性を示すことが大切です。


ただし、重要なプレゼンテーションなどの場合は、外見でプロフェッショナリズムをアピールし、相手に真剣さを伝えることは有効です。


9)フォーマルな表現


公式セレモニーではフォーマルな表現が求められます。

Distinguidos invitados y autoridades presentes...

ご臨席いただいている関係者の皆様

A nombre de nuestra empresa, damos la bienvenida a todos los presentes…

弊社を代表して、皆様を心よりお迎えいたします…

など。


また書面でもフォーマルな表現がよく見られます。

ビジネスメールの冒頭にはEstimado/a [相手の名前](尊敬語を使った親しみのある表現)を使い、最後にはAtentamenteあるいはSaludos cordiales(敬具)と締めくくることが一般的です。このような正式な表現を使うことで、相手に対する敬意を示すことができます。


ビジネスメールの定型パターンについてはこちらを参照ください。


10)敬称


スペイン語圏では、ビジネスに限らずさまざまなシーンでさまざま敬称が使われています。


まず、定番は以下の3つ。

Señor (男性に対して)

Señora (既婚の女性に対して)

Señorita (未婚の女性に対して)


既婚、未婚を問わない英語のMs.に相当する言葉は、今のところスペイン語にはありません。


SeñorとSeñoraの代わりにそれぞれDonとDoñaが使われることもあります。やや古風ですが、フォーマルな場面ではよく使われます。


さらに、特にメキシコではLicenciado、Ingenieroなどといった敬称も使います。Licenciado García(ガルシアさん)、 Ingeniero Pérez(ペレスさん)などと呼びかけます。

Licenciadoは大学を卒業した文系の学士、Ingenieroは大学を卒業した理系の技術者のことで、女性であれば、それぞれ Licenciad、Ingenieraとなります。名前を省略して、Licenciado、Ingeniero と敬称だけで呼びかけることもあります。


ちなみに日本では自分の上司のであっても、社外の人に対しでは敬称は省くことが一般的ですが、スペイン語圏では敬称を添えるのが普通です。面と向かって上司と話す際には、必ずしも敬称は必要ないのに対して、第三者との関係では敬称を添えることは興味深い点です。


敬称の詳細についてはこちら参照


11)冠婚葬祭


会社の同僚、ビジネスパートナーに冠婚葬祭に関するイベントがあったときには、お祝いの言葉を贈ったり、共感の意を表しましょう。特に近しい関係であれば、イベントに参加することが望ましいですが、状況が許さない場合は、誠意をもって気持ちを伝えることが大切です。


スペイン語圏の人たちは、そのような心遣いに敏感で、直接的にも、間接的にも効果は絶大です。ビジネス上でも何らかの形で必ず戻ってきます。


12)ビジネスネットワーキング


日本人は日本人同士で群れがちです。異郷にあって同胞の存在がありがたいことは当然です。しかし、ビジネスの幅を広げようと思うなら、適切なビジネスネットワーキングは欠かせません。地元のイベントやセミナーに積極的に参加し、業界関係者やビジネスリーダーとの交流を深めることは有効です。


そのような会合では、日本人同士で日本語を話すことは避けましょう。当然と言えば当然ですが、感じの良いものではありません。日系企業の社内であればある程度容認されていも、外では通用しません。


まとめ


スペイン語圏でビジネスにおいては、現地のビジネスマナーを理解し、実践することが成功の鍵となります。親しみやすい挨拶、時間への柔軟性、会議におけるやりとり、ビジネス会食の重要性など、これらの要素を押さえつつ、文化の違いを尊重し、相手とのコミュニケーションを大切にすることで、よりスムーズな任務の遂行、ビジネスにおける成功が期待できるでしょう。

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